ホームページをオープンするにあたり、“MithriL”の意味を正確にしたいと思った。映画『ロード・オブ・ザ・リング』の3部作の各パンフレットを読み返してみる。19年前、文庫本でイメージした架空の衣“ミスリル”は、「鎖かたびら」という西洋の実在した鎧がモデルであったことを知った。早速、インターネットを検索すると幸い画像を見ることができ、そのサイトの管理人の方から著書を紹介していただいた。その著者が三浦權利さんだった。
「armourer(アーマラ)」という三浦さんの公式サイトを拝見し、ご自宅に電話をして、私のサイトに「鎖かたびら」の画像を掲載したい旨をお話したら、「写真の資料がたくさんあるので実際見て選んでみては?」と言ってくださった。早速、その週末の日曜日ご自宅に伺うことになった。アポイントの翌日三浦さんから電話があり、4月22日の午後8時東京12ch(「所さん&おすぎの偉大なるトホホ人物伝」)の番組で三浦さんが紹介されるという連絡をいただいた。金曜日の放送ではご自宅と工房での製作風景、そして西洋甲冑(全身鎧)3体と三浦さんがスタジオに出演。お会いする前にお顔を拝見することができた。
4月25日午後1時。東京下町にある三浦さん宅に友人と訪ねた。自己紹介をさせていただいた後、改めて『指輪物語』の話をする。三浦さんは早速工房の奥からビニール袋を持ってきてくださった。中から取り出されたのは細かいメイル(網の目の鎖)の塊。引き上げて広げてみる。これがミスリルの原型なのだ……。
三浦さんによれば、「鎖かたびら」はユーラシア大陸のほぼ全域で生産されており、紀元前以前から戦場で用いられてきたこと。ヨーロッパでは古代ローマ帝国の時代から作られ、鎖による装甲は刀剣類に対して高い防御力を発揮するので、古代では非常に有用な防具であったこと。暗黒時代から中世になると騎士の基本的な装備として普及し、ルネッサンスでは板金製の鎧が主流になっていくなかで、その下に着用される「鎧下(よろいした)」になり長い間戦士に愛用されてきた。ちなみに、鎖かたびらの下にはすべりの良い「シュミーズ」を着ていたとのこと。
何カットも写真を撮らせていただく。私は見ているだけでなく触るだけでなく、実際着たいと思った。フロドの思いに近づいてみたい……。三浦さんにお願いして鎖かたびらを着させていただいた。頭から被るように着る。重さは6kg。シルクのように柔らかく鋼のように硬いミスリルのモデルはズシッと重いけれども、縫い目のないセーターのように動きやすい。2.5kgの鎖頭巾も付けてもらい冑をかぶり、とうとう剣を持たせてもらう。私は剣道をしているので、日本の鎧と西洋の鎧、鎧と防具、剣術と剣道についての違いを三浦さんに訊ねてみる。三浦さんは学生時代にフェンシングをされていたので、戦い方と道具の変遷や形状の時代考証のこと、機能美についてなど興味深い話は尽きない。
午後1時から2時までの1時間。三浦さんの貴重なお話と撮影のお時間をいただき、工房で撮影した画像は自由に使って良いということ、私のサイトとリンクさせていただくことを、快く承諾していただいた。
イメージとしての私の“ミスリル”は、三浦さんとの出会いによって、新たに息を吹き込まれ、“MithriL”になったような気がする。
2005年5月16日 Photo: Yoko Kanatani
※三浦權利 (Miura Shigetoshi):西洋甲冑師
著書 『図説西洋甲冑武器事典』 柏書房 他
http://www.sepia.dti.ne.jp/alices/armourer/armourer/index.html
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